【長谷川利行の作品ガイド】放浪の詩人画家が描いた東京の底光り ── 査定・買取のポイント

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作家略歴

自画像
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長谷川利行(はせがわ としゆき、1891年7月9日〜1940年10月12日)は、京都府山科生まれの洋画家です。

若い頃は短歌に傾倒し歌集も刊行していましたが、30歳前後から本格的に油彩へと転じ、上京後は東京・下谷や山谷を拠点に、酒場やドヤ街を転々としながら制作を続けました。

いわゆる画壇の登竜門とは距離を置いた独立独歩の画家で、「放浪の画家」「詩人画家」として語られる存在です。

1920年代後半には、1930年協会の前田寛治や佐伯祐三らと交流し、二科展にも入選。1929年には樗牛賞を受賞するなど、当時から一部の鑑識家には高く評価されていました。

しかしその生活は常に不安定で、貧困と酒に蝕まれながら制作を続け、1940年、東京市養育院にて49歳で没しています。

没後、画家や評論家たちによって再評価が進み、現在では昭和初期の洋画を語るうえで欠かせない存在となっています。

作風と代表作

代表作には《カフェ・パウリスタ》《水泳場》《地下鉄道開通》《池袋風景》などがあり、東京の近代化の現場、下町の酒場、カフェやダンスホール、工場・煙突といった都市の風景を鋭い速筆でとらえた作品群が知られます。佐伯祐三に比べるとより即興的で、筆触は荒々しく、しかし色価の選び方は驚くほど的確です。

制作スタイルはモデル料を払えずに描き上げたといわれる即興的な肖像画や、小さな板・紙に描かれた下町スケッチなど、材料と時間の制約と戦いながらの仕事でした。油彩のほかに、水彩・パステル・鉛筆素描・速写風のスケッチも多く残されており、いずれも同時代の洋画家のなかで独特の詩情を帯びています。

その画風は「生きた東京」を定着させたと評され、サイズの小さな作品であっても、一筆一筆に画家の体温が宿るとよく言われます。

長谷川利行 – 『山本發次郎コレクション―遺稿と蒐集品にみる全容』淡交社、2006年、ISBN 978-4473033239, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=55870850による
長谷川利行 – 講談社版日本近代絵画全集11「三岸好太郎・長谷川利行・靉光」講談社、1963年, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=66488343による
長谷川利行 – 講談社版日本近代絵画全集11「三岸好太郎・長谷川利行・靉光」講談社、1963年, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=66524643による

市場価値・査定のポイント

長谷川利行の市場評価は、近代洋画のなかでも近年あらためて見直されている作家のひとりです。佐伯祐三と並べて語られることも多く、小さな油彩や紙作品でも数十万円台から、状態や来歴の整った代表的な油彩では数百万円規模の実績も確認されています。

一方で、利行作品の特徴として重要なのは、「評価が高い=必ず売れるわけではない」という点です。
同じサイズ・同じようなモチーフであっても、

・作品の完成度
・制作時期(特に1930年代)
・来歴(展覧会歴・旧蔵情報)
・保存状態

によって評価が大きく分かれる傾向があります。

また、贋作・模作も流通しやすい作家であるため、査定段階での慎重な真贋判断が欠かせません。

査定で特に重視されるのは、

・制作時期
・モチーフ(都市風景・人物など)
・署名の有無と形式
・裏書や旧蔵者情報
・保存状態

といった複数の要素です。なかでも、制作地や時期を示す裏書や鑑題シール、展覧会図録への掲載歴などは評価を大きく左右するポイントとなります。

水彩・素描・葉書大のスケッチなども独立した評価対象となります。小さな紙片であっても、筆勢や署名が確認できる作品は市場で流通しており、真贋判断の重要な手がかりとなります。

オークション市場の実態

近年のオークション結果を見ると、長谷川利行の作品は一定数の流通がある一方で、価格の動きには明確な特徴が見られます。

まず、紙作品(水彩・素描・グワッシュなど)は比較的多く流通しており、落札価格は10万円台〜30万円台が一つのボリュームゾーンとなっています。一方、小品の油彩作品(サムホール〜F4号程度)になると、40万円〜100万円前後での成約が多く見られます。

さらに、F6〜F8号クラスの油彩作品では、100万円〜200万円台での取引が中心となりますが、同じサイズ帯であっても価格差は大きく、200万円を超える例もあれば、不落札となるケースも一定数確認されています。

実際に、1930年代の都市風景や工場地帯を描いた作品では120万円〜240万円程度での成約例が見られる一方、同程度のサイズでも条件が揃わない場合は流札となることもあります。
このため、売却のタイミングや出す市場によって結果が大きく変わる作家でもあります。

また、展覧会出品歴や文献掲載のある重要作品では、300万円〜800万円以上の高額落札例も確認されており、同一作家の中でも評価の振れ幅が非常に大きいことが特徴です。

判断が難しいからこそ、専門家による見立てが重要です

長谷川利行の作品は、

・モチーフ(都市風景・人物・カフェなど)
・制作年代(特に1930年代)
・来歴(展覧会歴・文献掲載)
・コンディション(ヒビ・剥落の状態)

といった複数の要素が複雑に絡み合い、評価が決まります。

そのため、

・いくらくらいで売れるのか
・今の状態で市場に出せるのか
・そもそも評価が見込める作品なのか

といった判断は、一般的な相場だけで見極めることが難しいケースが多く見られます。

当店では、これまでの取引データと実務経験をもとに、作品ごとの状態や背景を踏まえた現実的なご提案を行っております。

「売れるかどうか分からない」という段階でも問題ありません。
まずは作品全体とサイン、裏面などが分かる写真だけでも構いませんので、お気軽にご相談ください。

買取でよくあるご質問

Q. 長谷川利行の作品は贋作が多いと聞きますが大丈夫ですか?

A.長谷川利行は人気が高い一方で、模作や判断が難しい作品が流通しているのも事実です。
そのため真贋の判断は、
・サインや筆致
・制作時期ごとの様式
・支持体や絵具の状態
・来歴(鑑題シール・展覧会歴など)
を総合的に見て行う必要があります。

当店では、まず写真や実物をもとに一次的な見立てを行い、必要に応じて東京美術倶楽部鑑定委員会などの専門機関へのご案内も可能です。

👉 いきなり鑑定に出す必要はありません。
まずは確認の段階からでも、お気軽にご相談ください。

Q. 大きな油彩でなく小品しかないのですが価値はありますか?

A.はい、十分に価値があります。

長谷川利行は、板や紙に小さく描いた作品が多く、むしろ小品こそが画家の本質をよく表しているケースも少なくありません。
実際の市場でも、サムホール〜F4程度の作品が中心となっており、

サイズよりも
・モチーフ(都市風景・人物など)
・制作年代(特に1930年代)
・作品の完成度

によって評価が大きく変わります。

👉 「小さいから安い」とは限らない作家ですので、そのままの状態でぜひ拝見させてください。

Q. 画面にヤニ汚れや剥落があります。どうすれば良いですか?

A.ご自身での洗浄や加筆修復はおすすめできません。

長谷川利行の作品は、もともと厚塗りや不安定な支持体による表現が多く、ヒビや剥落がある状態自体は珍しくありません。

そのため査定では、
・劣化の進行度
・画面の安定性
・修復の可否
を含めて判断します。

無理に手を加えてしまうと、かえって評価を下げてしまうケースもありますので、現状のままご相談いただくのが最も安全です。

執筆・監修

井浦歳和 — 株式会社ロイドワークスギャラリー代表
WRITTEN & SUPERVISED BY
井浦 歳和 (いうら としかず)
株式会社ロイドワークスギャラリー 代表 / 美術商・画商
  • ▸ 2009年、東京都文京区湯島にてロイドワークスギャラリー創業
  • ▸ 美術品・絵画の買取/展示/査定/鑑定業務に30年以上従事
  • ▸ BSフジ「ブレイク前夜」プロデュース
  • ▸ 香月泰男・東郷青児・荻須高徳・藤田嗣治など戦後洋画の買取/査定実績多数
  • ▸ 油彩/パステル/リトグラフ/デッサン/陶板画まで幅広く対応

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