「版画って、コピーとは違うんですか?」
「同じ絵が何枚もあるなら、本物ではないのでしょうか?」
「サインやエディション番号があれば価値がありますか?」

美術品の査定や買取のご相談を受けていると、版画と複製画の違いについて質問をいただくことがあります。

アート作品の世界では、「本物」という言葉が少し分かりにくいことがあります。

作家が直接描いた一点物の油彩、日本画、水彩、ドローイングなどは、もちろん本物の作品です。
一方で、版画や写真作品、エディション作品のように、複数存在していても正規の作品として扱われるものもあります。

つまり、アートでは「本物かどうか」と「一点物かどうか」は、必ずしも同じ意味ではありません。

目次

まず整理したいこと|本物でも複数ある作品があります

多くの方は、本物の美術品というと、一点しかない原画を想像されるかもしれません。

しかし、美術の世界では、複数制作されることを前提にした作品もあります。

たとえば、版画、写真作品、エディション作品などです。

このような作品は、一点物ではありません。
しかし、作家や工房、出版社などが関わって正規に制作されたものであれば、美術市場で作品として扱われることがあります。

たとえば、作品に「10/50」と書かれていれば、50部制作されたうちの10番目という意味です。

つまり、「複数あるから偽物」というわけではありません。

本物の作品でも、原画ではなく、版画やエディション作品として複数存在することがあります。

版画とは何か

版画とは、木版、銅版、石版、シルクスクリーンなど、何らかの「版」を使って制作される作品です。

代表的な技法には、木版画、銅版画、リトグラフ、シルクスクリーン、エッチング、アクアチント、ドライポイント、メゾチントなどがあります。

版画は、一点物の絵画とは違い、同じイメージを複数制作できる特徴があります。

ただし、美術作品としての版画は、単なるコピーではありません。

作家が制作に関わり、技法や紙、色、刷りの状態、エディション数などを管理しながら制作されたものは、正規の版画作品として扱われます。

版画は「複数あるから価値がない」というものではありません。
版画という技法そのものが、美術表現のひとつとして長い歴史を持っています。

複製画とは何か

複製画とは、すでに存在する原画や作品イメージをもとに、印刷や複写によって再現したものを指すことが多いです。

たとえば、美術館のミュージアムショップで販売されているポスター、インテリア用の複製画、印刷によって原画の雰囲気を再現した作品などがあります。

複製画やポスターが悪いという意味ではありません。

好きな作品を自宅に飾ったり、インテリアとして楽しんだりするには、とても魅力的なものです。
価格も比較的手に取りやすく、名画や人気作家のイメージを身近に楽しめる良さがあります。

ただし、美術市場での査定や売却を考える場合、複製画は原画やオリジナル版画とは評価の見方が異なることが多くあります。

大切なのは、それが「版画作品」なのか、「複製画」なのかを確認することです。

版画と複製画の大きな違い

版画と複製画の大きな違いは、作品として制作されたものか、既存の作品イメージを再現したものか、という点にあります。

オリジナル版画は、版画として制作されることを前提に作られた作品です。

作家が下絵を描いたり、版の制作に関わったり、刷りや色を確認したり、完成した作品にサインを入れたりする場合があります。

一方で、複製画は、すでにある原画やイメージを印刷などで再現したものです。

もちろん、複製画にも品質の高いものはあります。
しかし、美術市場では、作家が制作に関わったオリジナル版画と、後から印刷された複製画では、評価のされ方が異なることが多いです。

簡単にいえば、版画は「版画として制作された作品」、複製画は「別の作品を再現したもの」と考えると分かりやすいでしょう。

サインとエディション番号は何を見る?

版画やエディション作品では、サインやエディション番号が大切な確認ポイントになります。

よく見られるのは、作品下部の余白に書かれたサインや番号です。

たとえば、次のような表記があります。

・10/50
・A.P.
・E.A.
・H.C.

「10/50」は、50部のうちの10番目という意味です。

「A.P.」は Artist Proof の略で、作家保存版を意味することがあります。
「E.A.」は Épreuve d’artiste の略で、フランス語で作家保存版を意味します。
「H.C.」は Hors Commerce の略で、非売品や関係者用の版を示すことがあります。

ただし、これらの表記があるからといって、それだけで価値が決まるわけではありません。

作家名、技法、制作時期、刷りの状態、紙の状態、保存状態、証明書、出版元、工房、来歴などをあわせて確認する必要があります。

工芸印刷・ポスター・リプロダクションの場合

複製画の中には、工芸印刷、リプロダクション、ポスターなどがあります。

これらは、原画や作品イメージを印刷技術で再現したものです。

近年では、非常に高精細な印刷技術によって、原画の雰囲気をよく再現したものもあります。
また、額装されて販売されているものも多く、インテリアとして楽しむには十分に魅力があります。

ただし、査定や売却の場面では、オリジナル版画や原画とは扱いが異なることが多いです。

特に、ポスターや大量印刷された複製画は、美術市場で高額評価になりにくい場合があります。

一方で、限定部数で制作されたもの、作家のサインがあるもの、出版社や工房の証明があるものなどは、作品によって評価が変わる場合もあります。

複製画だから必ず価値がない、というわけではありません。
ただし、原画やオリジナル版画とは区別して考える必要があります。

エスタンプや後刷りの場合

版画や複製画の話で、もうひとつ確認しておきたいのが「エスタンプ」や「後刷り」と呼ばれる作品です。

エスタンプは、もともとはフランス語で版画や刷り物を意味する言葉です。
ただし、日本の美術品の流通では、作家の原画や水彩、油彩などをもとに、後年制作された複製版画や限定印刷作品を指して使われることがあります。

また、作家本人が直接制作や刷りに関わった時期より後に刷られた作品を、「後刷り」と呼ぶことがあります。
作家の没後に刷られたものについては、「没後刷り」と表現されることもあります。

こうした作品は、必ずしも偽物というわけではありません。

出版社、工房、遺族、財団、権利者などの許可や管理のもとで制作されている場合もあります。

ただし、作家本人が生前に制作へ関わり、刷りや色、紙、エディションを確認したオリジナル版画とは、評価の見方が異なることがあります。

エスタンプや後刷りだから価値がない、というわけではありません。
しかし、原画、オリジナル版画、生前刷り、後刷り、没後刷り、複製画、ポスターでは、それぞれ市場での評価が異なります。

大切なのは、その作品がどのように制作され、誰が管理し、どのような資料が残っているのかを確認することです。

見分けるときに確認したいポイント

版画なのか、複製画なのかを確認するときは、作品全体だけでなく、細部や付属資料も見ていきます。

確認したいのは、次のようなポイントです。

・作家名
・作品名
・技法
・サインの有無
・エディション番号の有無
・証明書の有無
・作品裏や額裏の情報
・共シール、ギャラリーシール
・購入時の領収書、作品リスト
・出版元、工房、販売元
・紙の質感
・刷りの状態
・保存状態

一般の方が写真だけで完全に判断するのは難しい場合もあります。

特に、印刷技術が発達しているため、一見しただけでは版画と複製画の違いが分かりにくいこともあります。

その場合は、作品の正面だけでなく、サイン部分、余白、裏面、額裏、箱、証明書、共シールなどを撮影して、美術商に相談すると確認しやすくなります。

版画や複製画でも査定対象になる?

版画でも、査定や買取の対象になる作品はあります。

有名作家の版画、人気のあるシリーズ、限定部数の作品、状態の良いもの、サインやエディション番号が確認できるもの、証明書や箱が残っているものなどは、市場で評価されることがあります。

一方で、保存状態が悪い場合、シミやヤケが強い場合、額装の中で波打ちやカビが出ている場合、エディションやサインの確認が難しい場合などは、評価に影響することがあります。

複製画やポスターの場合でも、相談は可能です。

ただし、大量に流通しているポスターやインテリア用の印刷物の場合、買取価格がつきにくいことがあります。
一方で、限定制作の複製作品、作家サイン入りのもの、出版社や美術館関連の資料が残っているものなどは、確認してみる価値があります。

大切なのは、最初から「これは複製だから価値がない」と決めつけないことです。

作品本体、サイン、エディション、証明書、箱、購入資料などを確認することで、どのような作品なのかが見えてくる場合があります。

まとめ|版画はコピーではなく、複製画とは見方が違います

版画と複製画は、どちらも複数存在することがあります。
そのため、一般の方には違いが分かりにくいかもしれません。

しかし、美術市場では、作家が制作に関わったオリジナル版画やエディション作品と、原画をもとに印刷された複製画・ポスターでは、評価の見方が異なることが多くあります。

版画は、複数あっても正規の作品として扱われることがあります。
一方で、複製画やポスターは、インテリアとして楽しむ魅力はありますが、原画やオリジナル版画とは市場での評価が違う場合があります。

大切なのは、「本物か偽物か」という一言で判断するのではなく、その作品が何であるのかを丁寧に確認することです。

買取井浦では、版画、複製画、ポスター、エスタンプ、エディション作品の確認や、美術品の査定・買取について、美術商の視点からご相談を承っております。

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まずはお気軽にご相談ください。

執筆・監修

井浦歳和 — 株式会社ロイドワークスギャラリー代表
WRITTEN & SUPERVISED BY
井浦 歳和 (いうら としかず)
株式会社ロイドワークスギャラリー 代表 / 美術商・画商
  • ▸ 2009年、東京都文京区湯島にてロイドワークスギャラリー創業
  • ▸ 美術品・絵画の買取/展示/査定/鑑定業務に30年以上従事
  • ▸ BSフジ「ブレイク前夜」プロデュース
  • ▸ 戦後洋画から近代日本画まで買取/査定実績多数
  • ▸ 油彩/パステル/リトグラフ/デッサン/陶板画まで幅広く対応

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